エンタメ感想製作所

音楽や映画、ゲームなどの感想・レビューを素人なりに投稿。専門知識はないけど好きな気持ちは皆平等。

【ネタバレ注意】『子ども』からの卒業、『大人』への第一歩 ポッピンQ レビュー・感想

どうも、僕です。今回の記事は映画の感想になります。折角ブログがあるんだし、ディスクレビューなんかもやったのでこういうことにも挑戦してみます。当たり前ですがネタバレ注意です。

今回僕が見た映画は東映アニメーション60周年記念作品の『ポッピンQ』です。キャラクター原案が僕の大好きなゲーム、サモンナイトを手掛けた黒星紅白先生ということで気になっていた作品です。世間での評価がどんなものかと様子を伺っていたところ、話題にはあまり上がっていませんがそれなりに評価が良かったこともあり、実際に見に行ってみました。見に行ったのが昨年の26日なので、だいぶ時間が経ってしまいましたが書いていこうと思います。


良かった点

キャラクター

まず、登場するキャラクターは皆可愛くて良かったと思います。メインキャラクターの五人はそれぞれ個性がありますし、好感が持てるキャラクターです。声優さんも良い演技をしていました。
そしてなんといっても黒星紅白先生のデザインが素晴らしい。黒星絵がしっかりと再現されていて、黒星先生のファンなら満足できるのではないかと。
今作は主人公達のパートナーに位置する同位体という存在が登場します。この同位体達はポッピン族というマスコット的立ち位置のキャラクターなのですが、これが可愛い。子ども受けしそうです。ぬいぐるみとか出したらちょっと売れそうかも。

ダンスシーン

今作は『時の谷』という異世界に飛ばされた主人公達が、世界の時間の崩壊を防ぐためにダンスを踊るという要素が含まれています。このダンスシーンは3DCGにより描かれているのですが、これがすごい。正直絵のアニメーションとの違いはほとんどありません。僕は結構CGに敏感というか、どうにも苦手で好きになれないところがあるのですが、ポッピンQのCGは非常に自然ですんなり受け入れることができました。ひょっとしたら初めてのことかもしれません。個人的には、折角ならばもっとたくさんダンスシーンを入れて欲しかったなと思います。

テーマ・設定

このポッピンQ、様々な要素がごった煮にされたような映画です。主人公達の卒業物語や青春劇にダンスシーン、異世界要素やマスコットキャラクター、果てはバトルシーンと盛りだくさん。ポッピンQはプリキュアに近い作品だと思います(実際に今作の監督は、プリキュアシリーズを手掛けた宮原直樹さんが担当しています)
まるで闇鍋のような映画で、作品の密度は大変濃いと思います。このそれぞれに光るものがあるため、これらの融合により生まれた個性は強烈です。プリキュアに近い作品とは言いましたが、特有の個性をしっかり持っていると思います。


さて、ここまで個人的に良かった点を書きましたが、正直良かった点以上に悪かった点の方が目立っていました。僕自身はそれほど嫌いじゃないのですが、やはり非常に惜しい・残念だと言わざるを得ないです。なのでここからはどこが悪かったのか、どうすればより面白かったかについて書いていこうと思います。

悪かった点

圧倒的な説明・掘り下げ不足

全体的に唐突すぎる点が多かった印象です。なんでそうなったの?と思うポイントが複数ありました。例えば、レミィが声を出せなくなった理由や、声が戻った理由。突然ラスボスとして出てきた大人沙紀のこと。キグルミとは結局どういう存在なのか等々……。
もちろん一から十まで全てを説明する必要はありません。ですが今作に関しては「これを描写したならちゃんと説明してよ」と思うものが多かったわけです。パンフレットにもその辺りは書いてあるわけではないので、どうしてもモヤモヤ感が拭えません。
それと、各キャラクターの掘り下げも浅かったです。主人公の伊純は流石に掘り下げられているのですが、他の四人はかなり浅いです。沙紀だけはラストに関わるため多少掘り下げられましたが、やはり浅い。伊純達と和解に至るまでの感動があまり感じられませんでした。もっとこのシーンで感動できたんじゃないかと思ってしまいました。
なぜこうなったのかという原因の一つは、恐らく続編ありきで作っていたからだと思います。これは映画をスタッフロール後の最後まで見ていれば誰しもがそう思うでしょう。なにせ予告映像のようなものまで作られているのですから、製作陣としてはそのつもりでいたのでしょう。これで本当に続編が作られるのなら回収されるものもあるでしょうし、ある程度許容はできます。しかし率直なところ、興行的には続編を作るのは難しそうですし、最初から二部作計画でもない限り続きは作られないんじゃないかなと。そうなるとかなり不完全燃焼な感想になってしまいます。

尺不足

これは上記の内容とリンクしますね。尺がもっとあれば、色々と説明することもできたでしょう。この尺だからこその密度の濃さやスピード感は間違いなくあるのですが、総合的に考えるとどうしても尺不足。やはり主要キャラ五人の掘り下げを十分にできていない点が痛いですね。
冒険を通じて五人に芽生える絆が重要なポイントの一つだと思うのですが、掘り下げ不足なせいで突然仲良くなったような印象を覚えてしまいます。テーマである『卒業』についても、伊純と沙紀以外は悩みや過去の描写が少ないので、克服した・乗り越えたという感動が薄いです。
また、伊純達と心の繋がったパートナーであるポッピン族の同位体達も、個人的にはあまり良くない要素だったかもしれないと感じます。彼等の存在が伊純達の心理描写をざっくりと省いてしまっているんですよね。
同位体達は伊純達と心が繋がっているので、何を考えているのかや過去のことが筒抜けです。なので伊純達の心の機微を全て説明してしまうのです。そりゃ彼等が全て説明してくれるのなら、心の動きや過去話をカットすることができるので、尺的には短くできていいでしょう。製作陣としても直接同位体の口で話させてしまえばいいのですから楽なのは間違いないです。でもその代償として、我々は各キャラクター達に感情移入することが難しくなってしまうわけです。一番の魅力であるはずの伊純達の友情や卒業譚が薄っぺらく思えてしまってもおかしくない状況になっていたと、僕は思います。

ターゲット層が分からない

これは興行的側面の話になってきますが、いまいちどの層をターゲットにした作品なのかが分からないんですよね。絵や声優なんかはオタク向けなんですけど、内容自体は幼少期にプリキュアを見てきた世代に向けたものでもあり、設定的には今まさにプリキュアを見ている子ども世代にも向いているように思えます。
これを好意的に捉えれば、先ほど言ったように様々な要素が詰まった非常に内容の濃い作品ということにはなります。ですが明確にターゲット層を絞らなかったことで、人の入りはいまいち良くない状況になってしまいました。幅広い層が楽しめる作品だとパンフレットには書いてありましたが、正直現実はそんなに甘くないわけです。ヒットさせるためにはやはり、狙う層を明確にするべきなんじゃないかなと。余程素晴らしい作品でもない限り、層を選ばずヒットするなんてことないですよね。ちなみに僕は極音上映を見てみたかったので立川に行ったのですが、一番近所の映画館の席を確認した時は夜の部に一人いるだけで、あとは全て空席になっている始末です。
まぁこれは時期も悪かったかなぁとも思いますけどね。なにせアホほどヒットしている「君の名は。」の後ですし(おまけに向こうもまだ上映中) また、折角『卒業』がテーマの作品ですし、冬じゃなくて春に上映すればまた少し違ったのかなという気もします。
あと、どうでもいい話なんですけど、上にある二つ目の画像のキャッチコピーが全然重要じゃないというか、キャッチコピーにするようなものじゃないってのもブレてるなぁという感じ。

総評

星をつけるとしたら二つ半ってところですかね……。僕は嫌いじゃないというか、むしろ好きな方ではあるんですけれども。やっぱり内容は濃くても細部がスカスカな感じで、見た後にどうしても腑に落ちない感覚を覚えてしまうのは良くないです。
再三述べてますが、やっぱり尺が足りてないのが悪い。この尺でやるならこんなに詰め込むのは厳しかったのかもしれません。ダンスと戦闘の両立もあんまり上手くいってなかった印象ですし、レノとか別にいらなかったんじゃないかな。物語の展開や構成が悪かったのが惜しいところ。とにかく「ここをもっと説明してくれれば……」や、「ここをもっと掘り下げてくれれば……」が多いのが残念でした。
ですが光るところや魅力も当然あったわけで。上手くやればもっと面白くできたんだろうなぁと思うと、よりもったいないと思ってしまいます。掘り下げ不足で伝わりにくいですがキャラクターは魅力がありますし、ダンスで世界を救うというのも面白い。何より黒星先生のファンの方は見に行っても損はないんじゃないでしょうか。
個人的にはストーリーの流れといいますか、中学校卒業を目前に控えた伊純達がこの冒険を経て、『子ども』だった自分から卒業し、『大人』への階段を一歩登るという卒業譚はとても好きでした。思春期ならではの心の揺れ動きを、僕はもう懐かしむ側に足を踏み入れてしまっています。しかし今まさに伊純と同世代の学生さんには、きっと刺さるものがあると思います。
正直作ってくれるのなら是非とも続編が見たいです。折角仲良くなった五人の絡みをまだまだ見ていたいと素直に思いました。嘘予告的なのも面白そうな内容でしたしね。本来なら同位体との友情も描きたかったのかなと、あの映像を見て思いました。そうすれば彼等を余計だったのではないかと思わなくて済んだのですが。


さて、最終的なまとめといきましょう。本当に繰り返しになって申し訳ないのですが、本作は尺がないのに無理やり内容を詰め込みすぎ、説明の手が回らず逆にスカスカになってしまったダイヤの原石、といったような映画です。魅力的な点・面白い点は確かに各所にあって、素材としては申し分ないものでしたが、それを上手く生かしきれなかった惜しい作品と言えると思います。本当にもっと掘り下げをして欲しかった……。それに尽きますね。
興味のある方は彼女達の卒業譚と、新たな物語のはじまりをご覧になってはいかがでしょうか。

劇場アニメ「ポッピンQ」 | 公式サイト