エンタメ感想製作所

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※セトリあり※【ライブレポート】ユニゾンの生存証明。ロックバンドは座って見ても楽しいし泣ける。 UNISON SQUARE GARDEN USG 2020「LIVE (on the) SEAT」at 有明ガーデンシアター

この日が来るのを一体どれだけ待ち侘びたことか。

今月3度目の来訪となる有明ガーデンシアターにて、UNISON SQUARE GARDEN久々のツアー『Live (on the) SEAT』が開催された。
今日に至るまで配信で彼らのライブを見る機会はあったが、僕にとっては昨年11月以来、約1年ぶりに生で見るユニゾンのライブだ。ずっとずっとこの日を楽しみにしていた。

コロナの対策として2部制が取られ、公演時間も1時間限り。そして着席限定のライブという特殊な形態のライブだったが、事前にメンバーからも「この形式でやるからこそのライブ、今だからこそ出来るライブを見せる」と言った話があったため、その部分に関する不安は全くなく参加した。


セットリスト

1.クローバー
2.フルカラープログラム
3.フィクションフリーククライシス
4.誰かが忘れているかもしれない僕らにとって大事な001のこと
5.セレナーデが止まらない
6.世界はファンシー
7.君はともだち
8.夏影テールライト
9.Phantom Joke
10.徹頭徹尾夜な夜なドライブ
11.ライドオンタイム
12.harmonize finale

昨年7月の15周年ライブ以来のワクワク感に胸を躍らせていると、会場の照明が落ちた。まだ幕は上がらない。
メンバーの姿が見えないまま、会場には『クローバー』がアカペラで響く。

また、会おう

サビ終わりの一言目に歌われるこの言葉が、いつも以上に力を込めて歌われる。丸々1番をアカペラで歌い切ると、ようやく幕が上がり演奏が始まった。
依然として照明は落ちたまま、ステージ上のメンバーにのみエメラルドグリーンの照明が落とされる。美しいハーモニーに思わず聞き惚れた。

それまでの暗がりに一筋光が刺す演出から一転し、続く『フルカラープログラム』では鮮やかな虹色の光がステージを照らす。この曲が持つ華やかさ、そして希望の色の前に、僕は思わず泣いてしまいそうになった。「あぁ、確かにユニゾンのライブに来たんだ」という確かな実感だった。

ここから暫くはセンチメンタルな気分も忘れ、ひたすら目の前で奏でられる音楽を楽しんだ。
座って聞いてもロックバンドは楽しい。そんなこと僕は理解しているつもりだったし、なんなら1週間前のバンドリライブで一足先に(勝手に)座って楽しんでいた。それでも改めて、ライブが立たなきゃ楽しめないかどうかは、受け取る側の気分でしかないなと感じた。ファンが立っていようが立っていまいが、そこにいようがいまいが、バンドがやることは変わらないのだから。

さぁ、次は何が来る?
そんなことを考えていると、ここ最近耳にタコができるほど聞きまくった『世界はファンシー』のイントロが聞こえてくる。僕は思わず「うそつき!」と小さな声で口走った。
今回はニューアルバムのツアーではないので、僕が勝手に新曲はひとつもやらないと思い込んでいただけの話なのだが、不意を突かれて思わず溢れてしまった。

新曲はこれだけでなく、同じくリード曲であった『夏影テールライト』も披露された。今回のアルバムの中でもかなり爽やかで聞き心地もいい曲だが、この曲が来たということがどういうことか。

幻に消えたなら ジョークってことにしといて

この最後の一節直後、忙しなく、そしてけたたましい演奏が余韻を切り裂いた。アルバム同様、ユニゾン屈指の難曲『Phantom Joke』が始まる。
アルバム『Patrick Vagee』は3曲のシングル曲を主軸とし、直前曲のラストから歌詞で前振りをする構成だった。恐らくアルバムのツアーでも見ることができるだろうこの繋ぎを、ある意味先行でお届けしてくれたような形だ。
『世界はファンシー』が始まった時からこの流れを期待していたが、実際ライブでこの繋ぎ方を体感すると非常に気持ちいい。音源以上の興奮を味わえるだろう。

『Phantom Joke』で上がったファンのテンションは、キラーチューン『徹頭徹尾夜な夜なドライブ』で更に一段上がっていく。座っていようが会場はダンスフロアに様変わりだ。
そしてフェスで演奏される機会の多い『ライドオンタイム』がやってくる。僕としては生で聞くのは初めてだったので、この機会に聞けるとは思わず大変興奮した。

この頃には開幕に感じていた心を揺さぶられる感覚もすっかり消えて、ただ楽しい時間が過ぎていた。この日は敢えて、普段なら付けている腕時計を確認せず1時間という短いながらも濃厚な時間を堪能していた。
時間が分からないので終わりが近いかどうかなんてこと、僕には直前まで分からなかったのだ。気付いたのは『harmonize finale』のイントロであるピアノの音が聞こえてきてからとなる。
元々好きな曲だが、この日はいつも以上に歌詞が胸に突き刺さる。もう随分前にリリースされた曲ではあるが、まるでこのツアーのために書き下ろされたような歌詞だ。今この状況の中、ライブで聞くことにこんなにも価値がある曲は他にないと思った。

ずっと続けばいいな けど 終わりが近づいてるのも分かるよ

さよなら さよなら ここからまた始まってく

この日会場に集まったすべてのファンが、まさしくこう思っていたに違いない。そして全てのファンが、この曲でライブが終わることを確信したはずだ。
元通りにはまだ遠くとも、ライブが出来るようになった。ここからまた音楽は始まっていく。バンドは生き続けていく。そんなメッセージに、どんどん目頭が熱くなってくる。

そうだよ、君にも届くだろう 離れていたって大丈夫だよ 歌ってよ

ありがとう ありがとう また会えるまで 会える日まで

はっきり言おう。ユニゾンはズルいバンドだ。
本人たち(特に田淵)は口が裂けても言わないだろうが、これは僕たちファンへのメッセージだ。天邪鬼な彼らが素直にファンへの感謝を語ったり、ましてや励ますなんてことするはずもないが、この日の『harmonize finale』はそう受け取ってしまっても許して欲しい。

春頃、決まっていたライブがどんどん中止・延期になっていった。先の見えない状況の中、一体いつになったらライブに行ける日が来るのか、昔のように音楽を楽しめるのかが分からない暗闇に陥ったような気分になったことも、正直あった。
だけどそんな中でもエンターテイメントの火を消さずに頑張った人たちが大勢いて、ユニゾンだけでなく多くのアーティストが配信ライブを行ったし、夏になると屋内では和楽器バンド、屋外ではバンドリが大きなリアルライブの開催に踏み切り、音楽は死んでいないことを証明してくれた。
そして今、ユニゾンがこうやってツアーを回っている。そのライブの最後にこんなメッセージを歌われたら、そりゃ泣くよ。どれだけこの日を待ったと思ってるんだ。

アウトロ、ギターとボーカルだけのパートになると、残りの2人は早々に引き上げていった。斎藤さんが一人ステージに残って歌い切ると、彼も何も語らず去っていった。
直接多くは語らずとも、彼らの想いはライブを通して十分伝えてもらった。かっこいい後ろ姿だった。

スクリーンには「See You Next Live」の文字が映し出され、場内にはユニゾンのオープニングSEとして使用されているイズミカワソラの『絵の具』が流れ始めた。照明が落ちてすぐ『クローバー』のアカペラが始まっていたため、この日初めて流された『絵の具』だ。
僕はこの曲を聞きながら、今回のライブがまさしく次のライブへ繋がったんだなと感じ入っていた。
『絵の具』はライブの始まりに流される曲、つまり今日のライブの終わりは次のライブの始まりということになる。ユニゾンというバンドの生存報告と銘打たれた特別なライブツアーが終われば、いつも通りのライブツアーが始まるんだというメッセージなのかもしれない。田淵は「別にそういうわけじゃない」と言うかもしれないが、僕は勝手にそう受け取ることにした。


ニゾンのライブで泣かされたことはこれまでもあったが、ここまで彼らの音楽に励まされて泣いたのは初めてだった。
今でこそ比較的楽観的だし、当時もそれほど落ち込んでいたつもりではなかったのだが、音楽が前までのような形に戻らないんじゃないかと不安に感じていた部分は、先ほど書いたようにあったと思う。
その中でなんとかリアルライブも開催されるようになり、ユニゾンのライブも開催されることになった。今回ユニゾンが見せてくれたライブはいつも通りのユニゾンではあるけれども、今だからこそ出来る楽しさを追求したもので、それと同時に今しか言わないファンを励ますメッセージもあった。

普段は言わないからたまに言われると感情を揺さぶられる、という側面もあるにはある。だけどそれ以上に、この規模感で活動しながらも誰よりも「ロックバンドとは」に拘り続けたユニゾンが発信したからこそ、より深く心に響いたんじゃないか。

……いや、これも格好つけた言い方か。
他ならぬユニゾンから発せられたからこそ、ここまで感動したのだろう。直接口にしたわけじゃないけれど、僕が一番好きなバンドがそう受け取ってもいいように発信してくれたから、これだけ希望に満ちた気持ちになれたのだ。



この日、確かにロックバンドは生きていた。僕たちも生きている姿をロックバンドに見せられた。少し形は変わったけれど、お互いが生存報告をする舞台も蘇った。
僕らの当たり前が少しずつだけど確実に帰ってきていることを実感すると同時に、音楽に宿っている誰かにとっては必要で特別な力の存在も感じさせてくれるライブだった。
この「LIVE (on the) SEAT」ツアーが終わればまもなく、アルバムのツアーが始まるだろう。願わくばその頃には、もう少しだけでも当たり前が帰ってきていると嬉しい。



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