声優・バンドの深読み解剖研究室

知識のない音楽オタクが声優アーティストやバンドを深読みする。バンドリを始めに声優アーティストやバンドのディスクレビュー、ライブレポ中心に書いていきます。

レジェンドの底力と、新たな扉を開いたモンスター WBSS決勝戦 井上尚弥vsノニト・ドネア感想

こんにちは、僕です。

先日記事も書きました、WBSS勝戦井上尚弥VSノニト・ドネアの試合を現地観戦してまいりました。
感動しました。本当に素晴らしい試合を見せてもらいました。この試合を自分の目で見届けられたことを僕は一生忘れないと思います。
多くの人が井上尚弥選手の早い段階でのKO勝ちを予想していた試合の結末は、まさかの判定決着となりました。
ファンが期待していたような派手なKOは見られなかったかもしれませんが、お互いの強烈なパンチが交錯するスリリングかつ、非常に高度な技術戦が楽しめる名試合となりました。
今回はその感想を書いていきたいと思います。どうしてこういう展開になったのかなどについてちょっとした解説なんかも書いていきますが、僕は経験者なだけなのであまり信じすぎずに読んでくださいね。

ドネアが最もアドバンテージを取れていたのは、サイズの大きさと身体の強さ

尚弥選手にとってバンタム級は、恐らく適正階級と言える階級だと思います。この階級に上げてからは減量苦の話も聞きませんし、何よりここ3試合の抜群の仕上がりを見れば一目瞭然です。それは今回の試合も例外ではなく、コンディション的にはかなり良かったはずでした。

対するドネア選手ですが、ここ7年間は上の階級であるスーパーバンタムとフェザー級でやっていただけあり、尚弥選手より身体のサイズが大きいです。今回の試合でドネア選手にあり尚弥選手にないものは『キャリア』だと言われていましたが、それ以上に戦局を左右したのはこの『サイズ』でした。
ボクシングにおけるサイズ差はそのままフィジカルの強さとして、試合内容に直結していきます。サイズが大きい方がパワーがあり、タフであり、フィジカルの強さで相手を一方的に押し込むこともできます。

本人もそれが分かっていたからこそ、アウトボクシングに徹する試合運びではなくしっかり向かい合う展開を選んだのでしょう。むしろアウトボクシングに徹していたら、きっと早いラウンドで捉えられていたに違いありません。それを見越していたから、戦前の予想で早い段階のKOもあると言われていたのです。
5階級で戦ってきたドネア選手は、サイズ差によるアドバンテージをこれでもかと痛感しています。自分より大きくて身体が強い選手と戦うことのハンデを分かっているから、スピードで上回る尚弥選手から被弾することを覚悟して、フィジカルで前進して左フックを狙う戦法を選んだのです。その選択は間違いなく正解だったのは、負けはしたものの結果が悠然と物語っています。

事実、パンチを当てた回数は尚弥選手の方がかなり多いですし、明らかに効かされたパンチも何発も貰っています。それでも倒れたのはたったの1回。しかも思わず膝を付いたと言うよりは、回復の時間を稼ぐための戦略的なダウンでした。ドネア選手はその後のインタビューで「パワーはあったが言われているほどではなかった」と語っています。それは彼が尚弥選手よりナチュラルな身体の強さがあり、より上の階級のパンチ力を身を持って知っていたから出た発言だと思います。

勝負を分けたポイントはドネアのミスとようやく垣間見えた井上の真の実力

ボクシングにおける正義であるサイズと身体の強さで上回っていたドネア選手に、尚弥選手が勝てた要因は何だったのか。僕は二つあると思います。
一つは尚弥選手をグラつかせた9Rに、ドネア選手が自ら攻めていけなかったこと。もう一つは尚弥選手がその片鱗を見せたボクシングIQの高さと打たれ強さにあると思います。(これだと3つか)

9Rのあの場面は、今振り返ればドネア選手が尚弥選手に勝てる唯一のチャンスでした。彼自身インタビューで語っていますが、あの場面で積極的に攻め込まず、同じようにカウンターを狙ってしまったことは今思えばミステイクだったと思います。もちろん下手に攻め込めば逆に痛烈なカウンターを貰うという警戒心もあったと思いますが、そのリスクを負えなかったことで尚弥選手に回復の時間を与えてしまいました。

余談ですが、カウンターを警戒して打ち込めなかったというのは尚弥選手にも言える点があったと思います。ドネア選手からダウンを奪ったのは得意の左ボディーでしたが、実は試合中中々あのボディーを打てずにいました。あれを打てば局面を変えられるというところは多々あったと思うのですが、打てなかった。
それはドネア選手がカウンターの左フックを常に狙っていたからです。あれをもろに食らえば不味いことは分かりきっていることですし、試合中にも何度もカウンターで左フックを合わせていました。それは最終Rまでずっとそうでしたし、例え効いて後退している場面でも必ず鋭い左フックを返していました。最後まで左フックだけは欠片も失速していませんでした。あれを狙われていると不用意に左のボディーは打てません。2Rで左フックをもらったことでより警戒を強めていたと思うので、余計にボディーを打てずにいたのかなと思っています。

さて、それ以上に戦局を左右したのは、初めて自身を脅かす実力者と対峙したことで見えてきた、尚弥選手の高いボクシングIQと打たれ強さです。ボクシングIQ、つまりはボクシングをする上での賢さとでも言いましょうか。パワーの強さやパンチのテクニックではなく、試合をどう動かして勝つのかという知能の高さのことです。

今回尚弥選手は2Rにもらった左フックで瞼をカットし、試合終了までドネア選手が二人に見えるというアクシデントに見舞われました。後に眼窩底骨折が判明した大ダメージを負っていた状態の中、見事にこの窮地を切り抜けてみせました。試合中は足を叩くようなシーンもあったので、恐らく足にも何かトラブルがあったことは想像できます。その中でドネア選手を前進させない試合運びを展開したのは素晴らしかったと思います。何があるか分からないのがボクシングであり、実際に試合中何かが起きた際、それを切り抜けられるのかどうかが本当のトップ選手の条件なのです。今回尚弥選手はその一端を見せてくれたと思います。とはいえ、試合自体はほとんど尚弥選手が動かしていたので、まだまだその全貌は見えていないのではないかと思います。

また、今回の試合で最も収穫だったのが打たれ強さを証明できた点にあると思います。
カットした左フックもがっちり決まっていたので、あれで終わってもおかしくありませんでした。その後は目のダメージにより普段なら貰わないパンチももらっていましたし、前述の通りダウン寸前まで効かされた場面もありました。眼窩底骨折に加え鼻まで折れていた状態でも試合を戦い抜いたことで、心配されていた打たれ強さについては申し分ないことが証明されたと言っていいでしょう。ドネア選手の強打をあれだけもらい、必殺の左フックも浴びたのに倒れなかった選手は他にいないかもしれません。正直バンタム級にドネア選手以上のパンチを持った選手は、尚弥選手以外にいませんので、この先誰と戦っても致命的なダメージを受けることはないのではないかとすら思えます。今回の試合でカットがなければあれだけパンチを貰うこともなかったと思うので、今後を考えるとある意味良かったと思います。

井上尚弥の今後

WBSSを制覇し、ノニト・ドネアというレジェンドを破ったことで名実ともにバンタム級最強を証明した尚弥選手は、来年以降どんな世界を見せていくのか。トップランク社と契約したことで、来年2試合を米国で行い、1試合を日本で行うプランでいるそうです。また、本人はしばらくバンタムにとどまる意思を示しています。
バンタムにとどまるのであれば、戦う相手は限られてきます。WBO王者のゾラニ・テテ選手か、弟の井上拓真船首を破ったWBC王者のノルディーヌ・ウバーリ選手の二人しかいません。誰か伏兵が現れるか、別階級のビッグネームがバンタムにやってこない限り、他の選手とやることに価値がありません。プロモート会社と契約した以上、お金が稼げない試合をしても仕方がありませんし、バンタム級4団体を統一することが当面の目標となりそうです。そしてその使命を終えた後、スーパーバンタム級での4階級制覇を狙うのではないでしょうか。

現在、近い階級で戦うメリットがありそうなのはギジェルモ・リゴンドウ選手辺りかなと踏んでいるのですが、直近の試合でファイトスタイルを変えているので何だか次の試合で負けそうな気もしますし、仮に戦って勝っても年齢を持ち出される気もします。盛り上がるのは井岡一翔選手との日本人対決ですが、これは国内で盛り上がるだけですし……。よく言われている悪童、ルイス・ネリ選手との試合も、日本で盛り上がるだけで海外的にはコアなファンが言及するくらいで、別にうま味はないんです。意外とバンタム級の前後1階級くらいには、世界的に評価が高いあビッグネームが少ないのが悩みどころです。やはりスター選手というのは、重たい階級に多いですから。

とはいえ、尚弥選手自体の評価は今回の試合で確実に上がったと思います。ファンが見たいKO勝利はありませんでしたが、壮絶な技術戦とあのドネア選手の強打で倒れない強さを見せつけたことで、彼自身の名前はより大きなものになったはずです。サイズの大きいドネア選手に勝ったことで、また統一戦から逃げられるようなことにならなければいいのですが……。そこだけ気がかりですね。評価が上がることの弊害です。

終わりに

今回初めての世界戦生観戦でしたが、やはり会場の熱気を直に感じられる現地観戦は格別でした。何より自分の目で直接世界トップレベルの戦いを見られるのは違います。特に今回は日本ボクシング史に刻まれる歴史的な試合であり、あのドネア選手を生で見られて感無量ですし、パワー・スピード・テクニックの全てを心行くまで堪能できる、これこそがボクシングなんだと言う名勝負を見ることができてただただ楽しかったです。この試合を見て世界チャンピオンを目指す子どもが出てくるに違いないと感じました。試合後、お互いの健闘を称えあい笑顔で抱擁をした場面には涙してしまいました。ボクシングの、スポーツの最も美しい部分が見られた気がします。二人とも本当に強くて、人間性も素晴らしいチャンピオンなのです。

この一線を経て、尚弥選手はもっと強くなるでしょう。今回の試合で得た様々な経験は、練習では決して得られないものです。この先、もっともっと手に負えない世界のモンスターが見られるに違いありません。彼がこの先、どんな景色を見させてくれるのか。それを楽しみにしつつ、今回の記事を終えたいと思います。

それでは今回はこの辺りで。
さようなら!